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環境を読み、アジアで育む SUEP.共同主宰の末光弘和氏が紡ぐ“これからの建築”第3回「ArchEd+ Academy」建築セミナーレポート

建築の歴史を振り子のように捉え、気候変動を見据えてアジアへ視線を広げる──。SUEP.共同主宰の末光弘和氏が語ったのは、環境を読み、地域とともに建築を育てるための思考と実践だ。幼少期の興味から現在の取り組み、未来への展望までを語った講演と、その後に行われたArchEd+ Academy 学長の国広ジョージ氏との特別対談をレポートする。

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 総合建築設計事務所「プランテック」よりスピンアウトしたArch Nexus Foundationは2025年11月18日、「ArchEd+ Academy(アーキエデュプラス アカデミー)」の第3回となる建築セミナーを東京都港区の国際文化会館で開催した。建築家ユニット「SUEP.(スープ)」の共同主宰で九州大学大学院 准教授も務める末光弘和氏は、自身の生い立ちから、建築家になるまでの道のりを経て、「環境と共生する建築」のテーマに辿り着くまでの思考の足跡を語った。

盛況となった第3回「ArchEd+ Academy」建築セミナー
盛況となった第3回「ArchEd+ Academy」建築セミナー

建築家の萌芽となった愛媛から東京での学びへ

 愛媛県で生まれ育った末光氏。実家は硝子店を営み、製図板やCADが身近にあった。通っていた小学校の裏には丹下健三設計の「愛媛県民会館」があり、写生大会で描いた記憶もある。

 東京大学進学後、建築の楽しさを決定付けたのは、住宅の設計課題だった。模型づくりに没頭し、「あまりにも面白くて寝られなかった」と末光氏は笑う。

 3年生からは、安藤忠雄氏の指導を受ける。卒業設計では同潤会の「青山アパートメント」建て替え計画に対案を提出。安藤氏に評価され、修士課程へ進学後、安藤忠雄建築研究所で半年ほどインターンの機会を得た。

 修士論文ではイタリアを代表する建築家のCarlo Scarpa(カルロ・スカルパ)の「カステルベッキオ美術館」を対象に時間軸と建築の関係を研究。過去の痕跡を読み解きながら新しい空間を紡ぐというテーマは、現在の環境を読む姿勢にもつながっていく。

末光 弘和/Hirokazu Suemitsu
末光 弘和/Hirokazu Suemitsu
1976年愛媛県松山市生まれ。1999年東京大学 建築学科卒業。2001東京大学大学院修士課程を修了後、同年に伊東豊雄建築設計事務所入所。2007年SUEP.共同主宰。2009年から2011年まで横浜国立大学大学院 Y-GSA設計助手。2020年から九州大学大学院 人間環境学研究院 准教授

伊東事務所で開けた建築の視野 世界と環境への着眼

 大学院修了後、2001年に伊東豊雄建築設計事務所に入所。宮城県仙台市の中心部で「せんだいメディアテーク」が開館した後で、伊東氏が新たな建築像を探り始めていた時期に重なった。最初の3年は欧州のプロジェクトを担当し、複数の案件に関わったが着工には至らず、独立を意識する転機にもなった。

 その後、伊東氏の指示でシンガポール担当へ異動。アジア最大級のショッピングモール「VIVO CITY(ビボ シティー)」や高級コンドミニアム「Belle Vue Residences(ベル ビュー レジデンス)」の開発に携わった。欧州と東南アジアの異なる文化圏で仕事をした経験は、「今でも自分の財産になっている」と話す。

 2007年に独立し、パートナーの陽子氏が2003年に立ち上げたSUEP.に共同主宰として参加。以後、東京、福岡、高雄(台湾)に拠点を置きながら、「自然との共生」をテーマに、住宅から公共施設まで幅広いプロジェクトを国内外で展開していくことになる。

建築の振り子とアジアの現在地 環境建築を考える起点

 自然との共生、すなわち環境を建築設計の中心に据えるにあたり、末光氏はまず建築の歴史を振り子の動きとして捉え直した。

 古典建築は壁式構造で窓が小さく、近代はミースやコルビュジエがガラスを用いて開放性を追求した。しかし、今はエネルギー消費を考える必要があり、そうなると全面ガラスは難しい。さりとて閉じた壁面に戻るわけにもいかない。「建築は次の在り方を模索する段階にある」との思考に着地した。

 もう一つの視点が「アジア」だ。温暖化が進めば日本は、東南アジアと似た熱帯気候に近づく。人口と経済の重心もアジアに移り、環境配慮型の都市を考える上では避けられないエリアとなっている。

 ただ末光氏が大学で学んだ欧州の理論は、自然と生活が溶け合った開放性が基層にあるアジアの環境には、そのまま適用できない。そのため、「アジア固有の建築を読み解くことこそが未来の日本、さらには地球の行方すらも考える手掛かりになる」と思い至った。

構造から環境への転換、「不可視のものと戯れる」SUEP.の建築

 環境シミュレーションを設計に取り込む末光氏の現在の姿勢は、構造エンジニアリングが建築デザインを方向づける現場に触れた経験に根ざしている。

環境シミュレーションのきっかけとなった構造エンジニアリングとの出会いを語る末光氏
環境シミュレーションのきっかけとなった構造エンジニアリングとの出会いを語る末光氏

 せんだいメディアテークで、チューブ状の鉄骨独立シャフト(チューブ)13本が不規則に配置されて建物を支えるデザインは、構造エンジニアリングの概念があって初めて成立する形だ。伊東豊雄氏の初期スケッチでは光や風を受けて自由に曲がる姿が描かれていたが、当時は環境解析が未熟だったため、構造安定性を優先し、四隅のチューブは裾広がりの形状に収束したという話を聞いた。その経緯を知り、末光氏は「環境エンジニアリングが進んでいれば別の形になったかもしれない」と感じたという。

 スコットランドの百貨店計画では、「Arup(アラップ)」で構造エンジニアを長年務め、イェール大学などの教授も歴任するCecil Balmond(セシル・バルモンド)氏の「形は人の意思を超えたルールが生む」という建築思想に接し、アルゴリズム=プログラミングによる3次元形状生成の手法を知り得た。

 伊東事務所で当時隣のデスクだったチームが手掛けていた福岡の体験学習施設「ぐりんぐりん」では、建築構造家の佐々木睦朗氏が、カニの甲羅が弱い部分を補強しながら進化する仕組みを構造に応用。応力分布に合わせて、形を最適化する手法を目の当たりにした。

 こうした構造エンジニアリングが形を導く手法は、末光氏の思考を押し広げた。「デザインとエンジニアリングが交差する地点で、環境の可能性を探りたくなった」と当時の心境を語った。

 その思いに基づき、SUEP.ではデザインチームとは別に「ラボチーム」を設立。煙突の最適形状や太陽軌道と窓位置から庇を自動生成するツールなど、空気や光のふるまいを徹底的に検証し、環境と形態の関係を体系的に研究している。末光氏は「壁を1つ設けたり、窓を開けたりするだけで、風の流れは変わる。目に見えない流体とどう向き合うか、その不可視のものと戯れることこそ、SUEP.の建築だ」と、環境と共生する建築の方向性を示した。

環境とアジアをテーマに実践した4つのプロジェクト

 講演後半では、4つのプロジェクトを紹介。いずれも環境条件を読み解き、建築と自然の関係を再構築する試みだ。

 「淡路島の住宅」は、海風を楽しみつつZEHを実現した住宅。太陽軌道や島全体の気候を分析し、四角い箱を淡路瓦の外皮が包むダブルスキンを採用した。瓦は季節の日射角度に合わせて立体成形し、夏は日射を遮り、冬は光を取り込む。地中熱利用や雨水活用など、暮らし全体を周辺環境と結び付ける仕組みも導入した。

 東京都世田谷区の集合住宅「ミドリノオカテラス」は、住民とのワークショップを重ね、旗竿地の限定的な日射条件をプログラムで総当たり検証し、雛壇状のボリュームとした。一方で、地域の生態系にも配慮し、建物の随所に植栽を施して鳥や蝶が訪れる共生の風景を創出した。

 台湾の「百佑オフィス」は、樹齢100年のマンゴーを敷地中央に据えた。樹冠と根を3Dスキャンし、木にとって望ましい日射や風を満たすように建物を削り出した。常夏気候を踏まえ、最小限のスラブをアメーバ状に広げて最大の影をつくり、台湾でも例が少ないZEB物件として評価された。

 台湾南端部の高雄港湾で計画されている「バナナピア(正式名称:PIER F)」は、高雄港湾の倉庫群をIT企業向けオフィスに再生したプロジェクト。建物と合わせて港全体で、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする“ネットゼロデベロップメント”を目指す構想だ。そこで海風や日射の解析を基に外部空間と緑地の配置も提案。蒸暑地に求められる通風しながら省エネを実現する設計を進めている。

 今回の講演で末光氏は、環境への関心からアジアへのまなざしへと広がり、それらが現在の実践へとつながっていく過程を示した。

 今では環境とアジアを重ね、「日本発の建築がどう貢献できるか」を探っている。「日本には成熟した建築文化と施工技術、そして気候風土に根ざした知恵がある。それらをアジア各地の環境課題に照らし合わせ、地域に適した形で翻訳していくことの先に、地球環境に資する建築の在り方が見えてくるのではないか」と、末光氏はそう信じながら日々のプロジェクトに向き合っていると述べ、講演を締めくくった。

【特別対談】エンジニアリング、AI、アジア、建築家の未来を語らう

ArchEd+ Academy 学長を務める国広ジョージ氏
ArchEd+ Academy 学長を務める国広ジョージ氏

 講演後の国広ジョージ氏との対談では、エンジニアリング、AI、アジアでの実践、キャリアの展望まで、多岐にわたる議論を交わした。

 最初のテーマは「建築家とエンジニアの役割」。末光氏は、エンジニアリングをデザインの延長として扱いつつも、最終判断には専門家の経験と総合的なバランス感覚が欠かせないと強調した。音楽ホールの協働では、形の自動最適化を試しながらも、最終判断は初期反射音などプロの知見が決め手になったという。

 建築設計でのAI活用に対しては、環境解析の速度が設計者の発想に追いついていない点を課題に挙げ、「将来はAIによる初期段階の自動検討を導入できれば」と期待を寄せた。

 アジアについて問われると、「日本の建築教育が西洋中心の一方、アジアには素材や空間に対するおおらかさが残り、学ぶべき点が多い。地域に深く入り込み、ネットワークの中で建築を育てる姿勢が重要だ」と返答した。

 今後の建築家としてのキャリア展望では、「都市の中心で“これが環境の時代の建築だ”といえる技術と思想を結晶させたマスターピースとなる作品を創りたい。だが一つの建築だけでは環境問題は解決しないため、誰もが真似できる手法を示し、思想として残すことに意味がある」と意気込みを口にし、アジアでの実践もさらに拡大していく意欲もみせた。

講演後の国広ジョージ氏との対談
講演後の国広ジョージ氏との対談

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アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2026年6月26日

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