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大成建設の建設3Dプリンティングへの挑戦を支える構造解析ソフトウェアの真価デジタルファブリケーション

大成建設は3Dプリンタを自社開発し、独自のセメント系材料をマテリアルに橋を試作するなど、建設分野でのデジタルファブリケーションの可能性を模索している。だが、3Dプリンタを用いた構造物の実現には、高度な構造解析と意匠性の両立がハードルとなっている。

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 建設業界で長らく叫ばれてきた少子高齢化を起因とする人手不足への対応は、時間外労働の上限規制が適用される2024年を前に、もはや猶予がない状況にある。また、多くの産業廃棄物と二酸化炭素を排出する建設業も世界的なムーブメントになっている脱炭素化の例外ではなく、温室効果ガスの大幅な削減に向き合う必要に迫られている。こうした諸問題を乗り越えるためには、デジタル変革が避けては通れない。

建設用3Dプリンティング技術をリードする大成建設

 大成建設は、中期経営計画「TAISEI VISION 2030」で掲げる建設DXの一環として、建設分野での3Dプリンタ活用にいち早く取り組んできた。アクティオ、有明工業高等専門学校、太平洋セメントと共同開発した独自の3Dプリンタ「T-3DP(Taisei-3D Printing)」を発表したのは2018年12月。そのわずか1年後の2020年には業界に先駆けて1.2(幅)×1.0(高さ)×6.0(長さ)メートルの橋を製作し、建設用3Dプリンティング技術の先駆者とも言える存在になっている。

 建設用3Dプリンタは、コンクリートなどをノズルから吐き出し、層を積み重ねて構造物を作る。これまでのように“型枠”を設けずにコンクリートの構造物を構築するため、事前の準備と片付けの手間がなくなる。型枠を使用しなければ意匠性が高い曲面や複雑な形状の構造物を作りやすい。ノズルの動きをプログラムが自動制御するので、正確な構造物を短時間で作れるというメリットもある。

 試作した橋では、そうした建設用3Dプリンティング技術の利点をさまざまな角度で検証している。横に長い橋は、縦方向に材料を積層して作る3Dプリンタには不向きだ。横方向に大きな物体を出力するには、そのサイズをカバーする大型3Dプリンタが必要になるからだ。そこで橋を44個のユニットに分割してプリントし、最終的に組み合わせて完成させた。

3Dプリンタで製作した“橋”
3Dプリンタで製作した“橋” 提供:大成建設

 コンクリートには「圧縮には強いが引っ張りには弱い」という特性があるため、ユニットを結合させる工法では「プレストレストコンクリート構造(PC構造)」を採用した。PC構造はコンクリートにあらかじめ(プレ)圧縮の力(ストレス)を加える工法で、使用時の荷重によって生まれる引張力の影響を受けず、ひび割れを防ぐ。

 PC構造にするために、橋の内部にコンクリートのユニットを横方向に貫く3本のPC鋼材を配置。鋼材を左右から締め付けて橋全体にプレストレスを与えて、ユニット同士を強固に結合した。

PC構造により、十分な耐荷重性能を確保
PC構造により、十分な耐荷重性能を確保 提供:大成建設

設計初期に「Inspire」を使って最小限のコンクリで強度を確保

 橋のプロジェクトで特筆すべきは、3Dプリンティングのメリットを最大限に生かすため、従来のコンクリート施工技術の常識を超え、3Dプリンティングならではの構造を目指したことにある。

大成建設 技術センター 社会基盤技術研究部 材工研究室 コンクリートDXチーム チームリーダー 木ノ村幸士氏
大成建設 技術センター 社会基盤技術研究部 材工研究室 コンクリートDXチーム チームリーダー 木ノ村幸士氏

 形状を検討するシミュレーションに使われたのが、不要な材料を削って最適な設計案を見いだす“トポロジー最適化”の機能を備えるアルテアエンジニアリング(以下、アルテア)の構造解析ソフトウェア「Altair Inspire(インスパイア)」だ。

 大成建設は2017年ごろからInspireを導入している。3Dプリンティングの技術開発全般に携わる木ノ村幸士氏は、「展示会で構造解析の手法としてトポロジー最適化に出会ったのが契機になった」と振り返る。その後、アルテアのエンジニアによる技術プレゼンや勉強会を経て導入が正式決定した。木ノ村氏は決め手を「コストパフォーマンスや使いやすさを実感したこと」と話す。

直感的な操作性の「Inspire」。トポロジー解析の専門知識がなくてもシミュレーションできる
直感的な操作性の「Inspire」。トポロジー解析の専門知識がなくてもシミュレーションできる 提供:大成建設

 トポロジー最適化は、満たすべき強度や荷重などの条件を与えると、その条件を満たす3D形状が導き出される。また、Inspire上で強度とコンクリートの量のバランスを簡単に調整でき、好みのトポロジー最適化結果を得られる。

 大成建設 技術センター 社会基盤技術研究部 材工研究室 構造解析チーム 主任 山本悠人氏は、「トポロジー最適化で強度を確保しつつコンクリート使用量が最少になる形状を導き出せれば橋の軽量化になり、環境負荷やコストの削減にもつながる。PC構造と併せれば、通常の工法よりも無駄な材料を使わず、軽さと強度を両立させた橋が実現する」と説明。結果的に橋の重さは、最適化前の4分の1にまで軽くなった。

 Inspireを使ったトポロジー最適化により橋を軽量化することで、大成建設は橋を支える橋脚や橋台の合理化にも期待を寄せている。

Inspireのトポロジー最適化を活用。PC構造と併せて、“軽く強い”橋を実現
Inspireのトポロジー最適化を活用。PC構造と併せて、“軽く強い”橋を実現 提供:大成建設

設計初期で意匠と構造の連携が可能に

 Inspireは、大成建設内で意匠設計者と構造設計者が連携するツールとしても役立っている。

 意匠設計者が作成した設計案は、次の工程で構造設計者によって強度や耐久性に問題がないかどうか検証される。しかし、意匠設計者と構造設計者は着眼点が異なるため、斬新なデザインであっても構造上の強度が担保されていなかったり、逆に構造設計者が提案する設計案は意匠設計者にとってはありきたりのデザインだったりすることが多い。そのため、意匠と構造の合意が形成されるまでには両者間で図面データが行き来する“手戻り”が度々発生してしまう。

大成建設 技術センター 社会基盤技術研究部 材工研究室 構造解析チーム 主任 山本悠人氏
大成建設 技術センター 社会基盤技術研究部 材工研究室 構造解析チーム 主任 山本悠人氏

 Inspireを両者共通のツールとして設計の初期段階で意匠設計者が使えば、構造の要件をクリアした上でデザインパターンを3Dモデルで試せる。Inspireからエクスポートした3Dモデルを使えるので、構造設計者が改めてFEM用に3Dモデルを作る手間もほぼない。意匠と構造の間の手戻りがなくなることで、設計作業時間の短縮につながる。Inspireは直感的な操作性を備えているため、構造の専門家ではない意匠設計者でも問題なく使える。

 Inspireは、新しいデザインのアイデア発想にも貢献する。同じ意匠設計者から生み出されるデザインは無意識のうちにパターン化し、どれも似てしまいがちだ。Inspireのトポロジー最適化では、パラメーターを変更するだけで3Dモデルの形状が連動して変化する。これまでに思い付きもしなかった新しいデザインを着想するヒントにもなる。

 今回試作した橋は 、Inspireで設計段階の早期に十分な強度を確保した上、コンクリートの使用量が最小になる形状を導き出した。完成した橋は国内外で賞を受賞し、注目を集めている。

今後の建設DXを担う建設用3Dプリンティングの可能性

 現行のT-3DPは門型で、ノズルはフレーム内でしか稼働しない。そのため、出力できるユニットのサイズは最大で2.0(幅)×1.5(高さ)×1.7(奥行き)メートルまでだ。

 大成建設は、今までのようにユニットに分割することなく、大型サイズでそのまま出力し、複雑な造形にも対応する可動範囲が柔軟な3Dプリンタの開発を計画している。今後は、実現可能性の高い柱や壁構造を筆頭に、多様な土木構造物や建築分野にも適用範囲が広がることが見込まれる。その際の設計で構造を担保するのに欠かせないのが、Inspireの構造解析シミュレーションだ。木ノ村氏は、「Inspireと3Dプリンタによるデジタルファブリケーションによって、設計、製造、施工のシームレスな連携が実現する。建設プロセスが一気通貫になることで、今まで不可能だった意匠性に富んだ構造物が、構造的に理にかなった形で創出できるようになる」とInspireで広がる3Dプリンティングの可能性を強調する。

 海外では既に土木構造物や住宅などの事例が多数出てきているが、国内の建設分野で3Dプリンティングの活用はまだ始まったばかり。大成建設が建設DXの一端と位置付けるInspireと3Dプリンタによるデジタルファブリケーションで、これからどのような構造物が世に生み出されるのか期待したい。

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提供:アルテアエンジニアリング株式会社
アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2023年9月29日

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