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大成建設が開発した“現場起点のAI”と、高性能ワークステーションが支える現場実装力生成AIで創造的な建築パースを自動生成

大成建設は全社横断でDX戦略を進めており、その中でもAI技術の内製開発を担うのが技術センター内の「AI研究室」だ。研究室では「現場起点でのAI活用」を掲げ、線画や模型からの建築パース自動生成や工事進捗のAIによる確認、社内技術の探索システムなどを開発してきた。BUILT主催の建設DXセミナーで明かされた建設業務向けAI開発の現在地と、それを支えるPC環境の最適解を探った。

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 日本HPは、BUILT主催で2025年7月17日に開催した「建設DXセミナー 2025 夏〜設計・施工・バックオフィスの業務改善を考える〜」に登壇し、AIで建設を変えるをテーマに大成建設と対談した。セッション内容をレポートするとともに追加取材を通して、大成建設のAI開発の現在地と建設×AIに最適なPC環境の在り方を追究した。

現場起点のAI開発に注力する大成建設の「AI研究室」

 大成建設は1873年創業、従業員約9000人を擁するスーパーゼネコン。日本初の地下鉄(上野〜浅草間)やボスポラス海峡横断トンネル、近年では東京五輪のメインスタジアムとなった国立競技場など、国内外の大規模プロジェクトで数々の実績を有する。

 建設DXでも業界をけん引する立場で、2025年には東京証券取引所の「DX銘柄2025」に選定。企業価値の向上につながるDXに取り組む企業を表彰する制度で、これまでの全社横断のDX戦略が高く評価されたかたちだ。

 DXを技術面で支えるのが、神奈川県横浜市戸塚区に拠点を構える「大成建設技術センター」だ。構造、風洞、音、火災、機械化施工など、建築に関わる幅広い分野の社内研究機関で、近年はAI開発にも注力し、2025年には専門組織「AI研究室」を立ち上げ、社内業務でAI活用を進めている。

 AI研究室に所属する古庄玄樹氏は、研究室の特徴を「徹底した内製開発」と語る。グループ会社も含めると約1万6000人にも上る従業員から、日々多様な要望が寄せられている。そうした現場の声を起点に、開発から実装まで一気通貫で行える体制がAI研究室の強みとなっている。

進捗把握から現場管理まで支援するAI システム

大成建設 技術センター 都市基盤技術研究部 AI研究室 主任 古庄玄樹氏
大成建設 技術センター 都市基盤技術研究部 AI研究室 主任 古庄玄樹氏

 現場課題に真正面から向き合い、スピーディーに具現化する。古庄氏は、そうした開発スタイルを具現化した4種類のAIを紹介した。

 1つ目は「AI工事進捗確認システム」。内装工事の現場にマーカーを設置し、360度カメラで撮影した映像をWebアプリにアップロードすると、AIが進捗状況を自動判定。壁や天井、設備の進捗は図面上に色分け表示され、一目で状況を把握できる。台車や伸び馬などの資機材の位置特定、床の水濡れなどの検出機能も備え、現場管理の効率化にもつながる。既に30件以上の現場で稼働済みで、今後さらに現場適用を進める見込みだ。

若手育成につながる“技術承継AI”

 2つ目は、150年にわたって蓄積された大成建設の技術資産を活用するWebアプリ「建築施工技術探索システム」だ。工法やノウハウなどの建築施工に関する社内ナレッジを再活用し、若手技術者に承継することを目的としている。古庄氏は「以前は分からないことがあると経験豊富なベテラン社員に聞けたが、今は人手不足でそうした機会も無くなっている。若手が気軽に使える先輩代わりのツールを目指した」と説明する。

 膨大な施工要領などの技術情報に対し、LLM(大規模言語モデル)を用いたRAG(検索拡張生成)システムとなっている。そのため、ユーザーがチャットで「○○工事の施工管理基準は?」と質問すると、AIが社内データベースから関連資料を検索し、回答を提示する。出典情報も併記されるため、信頼性のある情報が得られる(大成建設「生成AIを活用した建築施工技術探索システムを開発」)。

 ただし、古庄氏は「システムはまだ完全ではない」と付け加える。適切な情報が存在しない場合に、回答の誤りや偏りといったハルシネーションリスクがあるからだ。対策としてAIの出力を技術部門が監視し、問題があれば専門家が模範解答を登録する仕組みも整備している。「現状ではシステム単体では限界がある。だからこそ、AIの判断や生成に、人間が介在して修正/改善する“Human-in-the-Loop”の考え方を取り入れ、監視/学習の仕組みも同時に構築している」と解説する。

職人の暗黙知をAIで代替、断面画像から読み解く木材強度

 3つ目は、「製材強度推定AI」。近年、脱炭素や環境配慮の流れを受け、木造建築の需要は高まっている。

 一方で、木材は鉄骨やコンクリートに比べて1本ごとに材質や強度のばらつきが大きく、構造材で使うには厳密な選別と評価が欠かせない。現場では、桟積みされた木材を一度全て下ろし、1本ずつ叩(たた)いて強度を測定して再び積み直す手間が発生していた。

 そこで、「熟練工は木の断面を見れば硬さが分かる」という職人の暗黙知に着目。木材の小口画像を基に、ディープラーニングでヤング率(剛性)を推定するAIを開発した。開発は継続中だが、「人より高い精度が出ている」と古庄氏は手応えを口にする。

スケッチや模型から“壁打ち相手”になる建築パース生成

 最後に古庄氏が紹介したのは、自身が開発したオンプレミスの「建築パース生成AI」だ。手描きのラフスケッチや立体模型をカメラで読み込み、簡単なプロンプト(指示文)を入力するだけで、イメージに沿った建築パースがわずか数十秒で自動生成される。アイデアを即座に視覚化できるため、設計初期の検討がスピーディーかつ具体的に進められるようになる。

カメラで読み取った線画とAIで生成したパース
カメラで読み取った線画とAIで生成したパース

 講演では古庄氏が2タイプのデモを披露した。まず、簡単なスケッチをカメラで取り込み、「Wood Facade」「Shop」といったキーワードを入力すると、約20秒で精緻な完成予想図を出力。簡易模型を撮影した後で「Bird Eye View」「Office Building」といった指示を与えると、上空から見下ろしたオフィスビルの複数パースをモニターに表示した。

 古庄氏は「丸や四角のような図形からでも外観イメージ案の着想を得られる。設計初期の“壁打ち相手”として、心強い存在になるだろう」と話す。

 実写画像との連携にも対応し、既存建物の写真を使って「木のファサード案を生成」といった改修検討にも役立つ。企画・設計からリニューアルまで、幅広いフェーズでの用途が期待されている。

“その場で使えるAI”を可能にする高性能ワークステーション

 次々と高精細なパースを複数生成する。こうしたAIの即応性を可能にするのが、インテルのCPUを搭載した日本HPの高性能ワークステーションだ。

 古庄氏が実演に使用したのは、「HP ZBook Fury 16 inch G11 Mobile Workstation」。16インチのノート型ながら、最大構成ではNVIDIA RTX 5000 Ada(12GB)を搭載でき、このようにネットワークに接続せずオンプレミスでAIの複雑なリアルタイムレンダリング処理を短時間でこなすことが可能だ。

「HP ZBook Fury 16 inch G11 Mobile Workstation」
「HP ZBook Fury 16 inch G11 Mobile Workstation」

 日本HPの若宮明日香氏は、同じノート型の後継モデル「HP ZBook Fury G1i 16/18 inch Mobile Workstation PC」も紹介した。2025年7月発売の新機種は16インチと、新たに大画面18インチを追加した2サイズで展開し、インテル Core Ultra 9 HXプロセッサー、最大128GBメモリ、次世代GPUのNVIDIA RTX PRO 5000 Blackwellを搭載できる。

日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 ワークステーション営業部 市場開発担当部長 若宮明日香氏
日本HP エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 ワークステーション営業部 市場開発担当部長 若宮明日香氏

 若宮氏は「18インチは、17インチモデルと同等の本体サイズで、表示面積を約30%拡大した。16:10の広い画面で複雑なBIMモデルの細部確認やマルチウィンドウ操作も快適。さらに200ワット(W)クラスのTDP(システム熱設計電力)に対応し、モバイル環境でも高い処理能力を長時間安定して発揮する」と利点を補足した。

 古庄氏は「ノート型でここまで動くのは驚き」と語り、発注者とデザインの方向性を決める打ち合わせでも、AIをその場で使える機動力の高さに期待を寄せた。

 講演では、タワー型「HP Z2 Tower G1i Workstation」を使った建築パース生成AIのデモ動画も紹介。ノート型よりも速い、約10秒に1枚のペースでパースが次々と出力された。

「HP Z2 Tower G1i Workstation」を用いて生成したパース。左が元画像で、下のボックスに「Wood Facade Laboratory」などのプロンプトを入力すると木質ファサード案が生成
「HP Z2 Tower G1i Workstation」を用いて生成したパース。左が元画像で、下のボックスに「Wood Facade Laboratory」などのプロンプトを入力すると木質ファサード案が生成

 日本HPのタワー型ラインアップの中ではエントリーモデルに当たるが、CPUは新しいCPUシリーズとなるArrow Lake-S世代のインテル Core Ultra 9 Kプロセッサー(最大24コア)、GPUは最大NVIDIA RTX 6000 Ada、NVIDIA GeForce RTXシリーズも搭載可能で、生成AIの精度とフィードバックスピードの向上に貢献する。若宮氏は「Blackwell世代のNVIDIA RTX PRO 6000やNVIDIA GeForce RTX 5090にも対応予定なので期待してもらいたい」と語った。

「HP Z2 Tower G1i Workstation」
「HP Z2 Tower G1i Workstation」

 Z2シリーズには、ラックマウント対応の小型筐体モデルも用意しており、サーバルームでの集中管理やリモート生成にも応じる。古庄氏は「研究所などで複数の生成AIを同時に走らせる場合に理想的だ」と評価した。

現場でこそ活躍するAI、日本HPと実現するAI時代の建設DX

 講演の締めくくりでは、建設業でのAI活用の展望と、それを実現するハードウェアの役割について登壇者がそれぞれの思いを語った。

 古庄氏は「もはやAIなしでは、業務の進め方が難しくなってきた。今後はさらに開発スピードを上げ、現場実装を進める」と意欲を示した。

 AIはもはや単なる効率化の手段ではなく、設計〜施工〜維持管理までに至る建設生産プロセス全体の変革をもたらす存在になりつつある。真にAIの力を引き出すには、演算処理を担う“器”となるワークステーションの進化も不可欠だ。

 若宮氏は「これからはネットワーク環境が整っていない現場や打ち合わせでも、AIを即時に活用できるマシンがより求められるだろう」と予測し、クラウドに頼らずオンプレミスでも使える即応型のAI環境を提供するワークステーションの重要性を指摘。「これからもAI時代の建設業界を支えるパートナーとして、現場のニーズに応える最適な業務環境を提供していきたい」と抱負を語った。

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提供:株式会社日本HP
アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2025年9月20日

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