鹿島建設 関西支店は、Revitを軸に設計モデルから施工モデルへつなぐ設計・施工のBIM連携を推進している。起点となったのは、大阪・関西万博のプロジェクトだ。そこで得た知見を起点に、専門工事会社を含む多主体でのBIM協業を持続的に成立させるための設計・施工連携の“型”づくりに取り組んでいる。モデルを「細分化して参照する」データの軽量運用と統合時の整合性を担保する基点定義をテンプレートとして整理し、実プロジェクトでの運用を進めている。
鹿島建設 関西支店では、設計から施工までをデジタルでつなぐ試みを進めている。設計・施工のBIM連携を目的に、「軽量化」と「プロジェクト基点」を軸に整備してきたBIM作成の基準となる「Revit基盤テンプレート」は、作ったら終わりではない。実案件で回し、フィードバックと改善を加えながら、“型”として磨く必要がある。特定案件で得た知見をそのまま横展開するのではなく、改めて設計・施工連携を整理して見直し、属人化せず組織として再現性のある形に落とし込む。その実現に向け、関西支店で進めているのが「Revitトップガンプロジェクト」だ。
現在、関西支店では設計モデルから施工モデルへRevitでつなぐ案件が6件稼働しており、うち中規模の事務所ビルと大規模の医療施設をトップガン案件に指定している。
トップガンプロジェクトでは、Revit基盤テンプレートの配布から、各社工種モデルの取り込み(リンク)、統合モデルで総合調整、施工モデルに戻って図面切り出しまでを同じ手法で行い、設計意図を確保しつつ施工モデルの詳細化を効率化する一連の流れを検証中だ。得られたノウハウはテンプレートと運用ルールに反映し、設計・施工連携の“型”として定着させる。
Autodesk Revitを軸に、設計BIMモデルから施工・製作BIMモデルへ、2DCAD利用を排除し、モデルを中心とした生産活動の体制づくりを狙う。その象徴的なプロジェクトとなったのが、国際的な注目を集めた大阪・関西万博の「ゲート施設大屋根ゲート(西ゲート)」だ。
西ゲートは、140×28メートルの船底形の大屋根が架かる万博会場の主要入口。軒天井には、奈良県吉野地方の杉と、鹿島グループが保有する兵庫県佐用町の山林の間伐材が張られた。
設計段階から施工関係者が参画し、設計モデルから施工モデルへのデータ連携、鉄骨や屋根/外壁、仕上など専門工事会社による工種モデルとの統合管理を鹿島建設の建築管理本部 西日本プロダクションセンターが担った。PD建築グループ長の吾郷明人氏は「複雑な軒天形状から下地までをデジタル化し、木パネルのモジュール化までを行った」と説明。整備したBIMモデルから施工図の直接書き出し、工種モデルは専門工事会社が製作図へ連携させた。さらに、BIMモデルは設計図書にも利用し、行政への建築確認申請もRevitのBIMモデルから直接書き出した2D図面で提出したという。
西ゲートの施工モデルと施工図切り出しを担ったのはスエヒロ設計事務所だ。これまでBIMを業務で扱った経験がなかったため、別案件で施工図BIMに取り組み、手触りをつかんだ上で西ゲートのプロジェクトに参画した。
スエヒロ設計事務所 取締役部長の小西彰浩氏は「作図業務で野縁(のぶち)受けの設計が難所だった」と振り返る。天井が3次元的にひねった形状で、その部材を固定する野縁受けも同様に3次元形状で成立させる必要があったからだ。
そこでエンジニアの孫浩洋氏は、Revit標準搭載のビジュアルプログラミングツール「Dynamo(ダイナモ)」で形状生成のツールを作成。スイープ(断面形状を軌跡に沿って生成する手法)として展開し、野縁受けの作図を効率化した。
小西氏は「試行錯誤の連続で負荷は小さくなかったが、結果として早い段階でこうした経験を積めたことは今後に生きるはず」と期待を込める。2Dでは表現し切れない形状が含まれ、BIMの価値を見い出せた案件だったため、孫氏は「建築設計とBIMの両方の面白さを実感した」と感想を口にする。
西ゲートでの成功を機に西日本プロダクションセンターでは、専門工事会社を巻き込んだBIM活用が加速している。一方で、こうした取り組みを今後も広げていくには、案件ごとに属人化しがちな進め方を整理し、誰が関わっても破綻しない仕組みが必要だという認識も共有されるようになった。吾郷氏は「目に見える形で成功事例があると、(社内外の)反応は変わる。最近は参画する会社も増えてきた」と意義を語る。その流れを受けて、関係者が増えても齟齬(そご)が生じないように、設計・施工連携の進め方を改めて“型”として整理することにした。
“型”を整理するに当たり、要件に設定したのが軽量化だ。大規模案件ではデータ容量が肥大化し、操作性が落ち、全体運用が破綻しやすいためだ。そこで工種や階、部位ごとにモデルを細分化し、リンク参照でつなげる運用体制を整えた。
まず西日本プロダクションセンター側で、専門工事会社がBIMで作業を始める基準となるRevit基盤テンプレート用意して配布する。ファミリやビューを極力削減して軽くして配布し、各社の利用ソフトウェアを限定しないように、RVT/IFC/DWG/NWD/PDFなどのファイル形式をそろえた。
専門工事会社側では、Revit基盤テンプレートに沿って3Dモデリングに着手し、成果物をIFCやDWGの形式で提出する。それらの工種モデルをRevitの施工モデルにリンクさせ、調整/更新し、必要な施工図をRevitのBIMモデルから書き出す。
工種モデルに修正が必要な場合も、他社モデルを勝手には修正しない。バインドして編集すると取り込むデータ量が増えてハンドリングが悪化してしまうし、正しい情報が分散してしまうからだ。常に各社で最新モデルを管理し、取り合いは最新統合モデルで確認して、問題があれば関係者全員に共有する。
軽量化で「業務が回る」環境を整備する他に、よく問題になるのが意匠・構造・設備のBIMモデルを重ね合わせて統合する際のズレだ。そこでRevit基盤テンプレート上で不動の座標(プロジェクト基点)を定義し、関係各社のデータを合わせるときデータ整合性を保つことをルール化した。プロジェクト基点の設定は、プロジェクト開始時に全関係者が共有すべき協業の前提条件として位置付けている。
関西支店で現在進行中のプロジェクトでは、Revit基盤テンプレートの作成をスエヒロ設計事務所が担っている。小西氏は「スタートの一番重要なところなので、とにかく間違えないことを意識した」と打ち明ける。テンプレート側に基準情報(プロジェクト基点、通り芯、フロアレベル)を埋め込み、原点と通り芯の取り方を標準化した。
作成したRevit基盤テンプレートは関係者全員に作業を開始する前に全員へ配布し、各社で問題がないか確認してもらう。吾郷氏は「ここが全ての基本となり、時間とマンパワーとコストを掛ける意味がある」と話す。
例えば、ズレを防ぐ運用上の注意点も明確にした。作図段階でRevitで角度を振ること自体は許容するが、提出や共有の際は必ずテンプレートの基準状態(元の角度)に戻してアップロードする。角度を振ったまま受け渡し、統合側で角度を戻すと、同じRevit同士でも基準点がズレが生じる場合があるためだ。
現状、専門工事会社が作成した複数の工種モデルを統合して建物全体を関係者が確認する段階では、3Dビュワーの「Autodesk Navisworks(ナビスワークス)」を活用している。大容量モデルを扱いやすく、Revitを日常的に操作しないメンバーも含め、閲覧する環境として運用しやすいのがその理由だ。修正が入っても更新で反映できるため、レビュー時のPC負荷も抑えられる。
一方で吾郷氏は、将来のBIM運用基盤となる共通データ環境として、「Autodesk Construction Cloud(ACC)」に可能性を見い出している。ACCではBIMモデルの閲覧だけでなく、書類管理など周辺業務まで一体で扱えるため、モデルとドキュメントを同じ基盤で運用できれば、関係者が増えても情報が散逸しにくく手戻りも起きにくい。
ただ現時点では、大規模かつ詳細なモデルをACCでシェアリングし、統合モデルの管理を行うには課題が残る。建設現場では通信環境の整備が行き届いておらず、PDFが増えるだけでも動作が重くなってしまうこともある。
吾郷氏は「将来、通信環境整備の改革や次世代の通信インフラ技術を活用できるようになれば、大幅な改善が見込める。今は先を見据えて、ACC上でのさらなるデータ活用方法を検証している」と明かす。
今後の展望として吾郷氏が最重要事項に挙げるのが、「BIMを一過性の取り組みにせず、業界に広く浸透させること。鹿島建設の中にもBIM未着手の人がいるし、専門工事会社側でも取り組めていない企業もある。だからこそ裾野を広げたい」と抱負を語る。
小西氏も賛同し、「3D設計は建築の可能性を広げる。Revitを活用し、建築全体が最適に回る形にしていきたい」とした。孫氏は現場側の負担を下げる観点から、「現場の人が分かりやすい形で図面やモデルを作れるように、プログラミングも含めて作業環境を改善したい」と意気込む。
また、吾郷氏は「BIM活用が人材制約への対策にもなる。BIMモデルを細部まで描き切ることは、若手にとって納まりやディテールを学ぶ機会にもなるだろう」と指摘。さらに施工の前段でBIMモデルを整えておけば、経験が浅い人でも図面と突き合わせながら工事に入れるようになる。
担い手が増え、建物情報がBIM上に蓄積されれば、その先に施工現場のオートメーション化の道も拓ける。耐火被覆やALC塗装のロボット化は話題となっているが、吾郷氏は「今はまだ実用段階ではない」と断りを入れた上で、「BIMデータを発展的に活用する未来に向けた準備として、アッセンブリまで含めた詳細モデルを徹底して作り込こんでおくことが大事だ」と強調する。
吾郷氏は、専門工事会社との関係を「単なる発注先」から「共創パートナー」へ進化させ、BIM活用によるWin-Winのデータ連携を広げたいと期待を込める。「万博を契機に取り組みが進み、参加者も増えてきた。今後もクラウドとBIMを融合させた施工DXの可能性を探り、取り組みを継続していく」と展望を示した。
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アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2026年3月26日