近年、i-ConstructionやBIM/CIMの推進で、建設現場の3Dデータ化は標準的なプロセスとなりつつある。しかし、ドローンによる空撮測量は広範囲を短時間でカバーできる反面、橋梁の下やオーバーハング、狭小部といった「上空からの死角」で、データの欠落や精度低下という課題が残されていた。本稿では、京都の建設会社の忠英建設が挑戦した「死角ゼロ」の先進的なICT施工の事例を紹介する。
京都府宇治市に本社を置く忠英建設は、ドローンによる上空の広域データと、スマートフォン型3Dスキャナー「PIX4Dcatch(ピックスフォーディーキャッチ)」による地上の近接データを統合し、従来の手法では困難だった「死角ゼロ」の完全な3Dモデル構築を実現した。
対象となった現場は、「鴨川広域河川改修(加速化1級・防災安全)工事」が行われている、京都市の鴨川に架かる橋梁(きょうりょう)を含む大規模な工事区間。ここでは設計前の現況調査から、完成後の出来形計測まで求められており、発注者への提出書類として活用できる高い信頼性が必要とされていた。
しかし、現場には大きな課題があった。広域とは異なり、橋梁の下では手動飛行となるため、撮影経路がパイロットの勘に依存してしまい、ドローン単独での撮影では撮り漏れのリスクが非常に高かった。加えて、構造物や人員への衝突を避けるための細心の注意も必要だ。重要な構造物でありながらデータ化が難しいこのエリアを、いかにして効率的かつ高精度に記録するかがプロジェクトの焦点となった。
課題に対し、忠英建設は「上空」と「地上」の異なる視点からのデータを組み合わせるハイブリッドな手法を採用した。
2つの手法を併用することで、ドローンの機動力を生かしつつ、詳細が必要な箇所は手元のスマホで確実に補完するという効率的なワークフローを構築した。
PIX4Dcatchは、iPad ProやiPhone Proに搭載されたLiDARセンサーとカメラ情報を活用し、手持ちのデバイスをプロ仕様の3Dスキャナーへと変貌させるモバイルアプリケーション。最大の特徴は、撮影中にリアルタイムでAR(拡張現実)が表示され、スキャン済みのエリアが画面上で網掛けされる点にある。「どこを撮ったか」「どこが撮れていないか」がその場で視認できるため、撮り漏れによる手戻りを防ぐ。
また、本事例のようにRTKデバイスとBluetooth接続することで、スマホの位置情報ではなく、センチ級の絶対精度を持ったジオリファレンス(位置情報付き)画像の取得が可能になる。そのため、ドローンデータや図面とズレのない、正確な「公共座標付きデジタルツイン」を現場で即座に作成できる。
今回の橋梁下計測で活躍した「Emlid Reach RX」は、重量わずか250グラムの超軽量/コンパクトなネットワークRTKローバーだ。従来の測量機のような複雑な設定は一切不要。Bluetoothでスマホ上のPIX4Dcatchと接続し、NTRIP(補正情報配信サービス)のアカウント情報を入力するだけで、数秒でセットアップが完了する。
マルチバンド対応により、市街地や多少の障害物がある環境でも安定したFix解(高精度な位置情報)を得やすく、IP68の防水防塵性能を持つため、河川敷や悪天候の現場でも安心して運用できる。「難しい設定なしで、誰でも高精度測量ができる」という点で、PIX4Dcatchとの組み合わせは、まさに現場のDXを加速させる最適なペアリングといえる。
異なるデバイスで取得したデータを、ズレなく1つの3Dモデルに統合するためには、現場での工夫が不可欠。本プロジェクトでは以下のベストプラクティスを実践した。
1.空撮データと地上データの結合精度を高めるため、共通の評定点(GCP/対空標識)を3枚設置し、ドローンとPIX4Dcatchの両方から写り込むように配置。デスクトップ用写真測量/SfM(Structure from Motion)ソフトウェア「PIX4Dmatic(マティック)」の処理時にスムーズな座標統合が実現する。
2.橋梁下ではRTK Fixが途切れるため、橋下から出る際にはEmlid Reach RXのステータスが「Fix」に戻ったことを必ず確認してから橋下内の撮影を継続。正確な位置情報を保持したままスキャンし、後の処理時間を大幅に短縮した。
3.テクスチャを強化する撮影アングル壁面や梁(はり)などの構造物は、単なる形状だけでなく表面の質感(テクスチャ)も重要となる。斜めからの撮影や近接スキャンを組み合わせることで、幾何学的な形状だけでなく、ひび割れ等の確認にも耐えうる高精細なデータを取得した。
取得した膨大なデータは、PIX4Dmaticで処理。具体的なワークフローとしては、まずドローン画像とPIX4Dcatchのデータをそれぞれのプロジェクトとして点群生成まで行う。その際に、両方のプロジェクトに共通のGCP座標を入力することで、異なるソースのデータを高精度にマージ(結合)することに成功した。
完成した3Dモデルは、上空からの広域データと、橋梁下の詳細データが違和感なくつながり、欠落のない包括的なデジタルツインとなった。
本事例は、PIX4DcatchとEmlid Reach RXをドローン測量に「プラスオン」することで、アクセスが困難なエリアでも完全なデータセットが作成できることを示した。橋梁下のような難条件を含む現場で、上空×地上の統合ワークフローは、出来形管理から検査までを一気通貫で繋げるための強力なソリューションとなるはずだ。
プロジェクトを主導した忠英建設の澤雅史氏は、導入の経緯と効果について次のように振り返る。
──導入前の最大の課題は?
澤氏 何より「橋梁下」という環境の特殊性。当社は約4年前からICT施工で3Dデータを活用しているが、橋の下だけはどうしてもドローンの死角になり、GNSSも入らない。しかし、発注者へ提出するデータには、この部分の正確な形状が不可欠。既存の技術ではカバーしきれない空白をどう埋めるかが最大の悩みだった。
──Pix4D製品を選定した決め手は?
澤氏 実は他のソフトウェアや計測機器も検討したが、Pix4D製品、特にPIX4Dcatchの「シンプルさ」と「直感的な操作性」が最終的な決め手。高機能なソフトは他にもあるが、現場の誰もが使いこなせなければ意味がない。PIX4Dcatchはスマホアプリベースで、特別な研修を受けなくても「撮るだけ」で作業が進められる。ハードルの低さが、現場導入への大きな後押しとなった。
──現場での導入効果は?
澤氏 結果として、RTK対応のPIX4Dcatchで取得した地上データと、ドローンの空撮データをPIX4Dmaticで統合することで、当初の目的だった「一つの完全な3Dモデル」を生成できた。特筆すべきは時間短縮。従来の手法で測量し直す手間を考えれば、スマホで歩いてスキャンするだけで済むスピード感は圧倒的だ。ICT施工に必要な信頼性の高いデータが、この手軽さで生成できたことには本当に助けられた。
※本稿はPix4Dから提供されたコンテンツをBUILT編集部で再構成したものです。
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提供:Pix4D株式会社
アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2026年1月25日