インフラ構造物や建築物の老朽化は年々深刻化しており、いかに適切な維持管理をしていくかが喫緊の課題となっている。そうした際に必要となるのが図面だが、建設時のものが残っていないことが多い。そこでいま活用が広がっているのが、多種多様な現場を3Dスキャナーで3Dデータ化する試みだ。
日本の道路や橋梁(きょうりょう)、トンネルなどの社会インフラの多くは、高度経済成長期に集中的に整備されたものであり、今後急速に老朽化することが懸念されている。老朽化した社会インフラの全てをスクラップ&ビルドで更新することは、莫大なコストが発生するとともにサステナビリティの観点でも問題があり、いかに戦略的な維持管理を行い、長寿命化していくかが求められている。また、後世に重要文化財を残すという観点からも建造物の保護は重要になってくる。
そこで必要となるのが正確な図面だが、長年にわたる運用の中でさまざまな改修や変更が重ねられてきた結果、国土交通省や自治体が保有している図面と現状の間には、大きな差異が生じてしまっている。
同様の問題は建築業界でも散見される。建物の老朽化、耐震基準の更新などを背景に、既存の建物の改修/リフォーム需要が増加しているが、竣工当時の正確な図面はほとんど残っていない。仮に残っていたとしても、これまでの増改築や建築時の現場変更などにより、現状とは一致しないことも多い。そもそも設備図面に高さ情報がないのも問題だ。
従って改修工事の際には、あらためて建造物や建物、土地の測量からやり直す必要があるのだが、その作業を人手に頼ったのでは膨大な工数と時間を要してしまう。
そうした中で拡大しているのが、建造物や建物、土地などの対象物を3Dスキャンすることで点群データを収集し、図面化するというアプローチだ。製造業の工場でも同様の課題があり、工場のデジタルツインやIoT化が進む中、工場の図面やCADデータが存在せず、3Dスキャンで工場内の点群データを取得する取り組みも進んでいる。
上記のような背景から3Dスキャンに対して高まるニーズを捉え、レノボ・ジャパンではAUG-JPの協力を得て、ThinkPadなどの生産も担うNECパーソナルコンピュータ米沢事業所で3Dスキャン検証を行った。
AUG-JP
Autodesk製品のユーザーで構成された独立したコミュニティー。ユーザー同士の助け合いの場として、WebサイトやSNSを運営している。多くの企業の協力を得ながら全国各地でユーザー参加型の「学びと交流」を目的としたイベント「AUG-JP WorkShop」を開催する他、勉強会のサポートなども行っている。
3Dスキャンで使用したのは、下記の機材とソフトウェアだ。
1.3Dスキャナー
製品名:Leica BLK360 G2 イメージングレーザースキャナー
概要:小型かつ軽量のエントリーモデルだが、搭載されたLiDARセンサーは毎秒68万点で点群データを高速キャプチャーする。レーザーの射程は最大45メートル程度だ。また、カメラも搭載しており、点群データと同時に20秒で球面画像のスキャンが完了する。
【主な特徴】
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2.ソフトウェア
製品名:Leica Cyclone FIELD 360、Cyclone REGISTER 360 PLUS
概要:Leica Cyclone FIELD 360はLeica BLK360 G2 イメージングレーザースキャナーをコントロールし、VISテクノロジーで事前合成したスキャンを行い、点群データおよび画像を記録するモバイルアプリ。取得したデータは、ワークステーション上で動作するCyclone REGISTER 360 PLUSにWi-Fi経由、またはFAF(Fine Adjustment Frame)形式で受け渡される。
これを受けてCyclone REGISTER 360 PLUSでは、リンクの補正処理や座標付与、不要物の除去など点群データのチェックとクリーニングを行う。さらに補正処理済みの点群データや画像をAutodesk製品に取り込むことができるAutodesk ReCapの他、他社のCADなどで利用可能な中間フォーマット(E57ファイルなど)に変換して書き出すことも可能だ。
上記の検証環境を用いて、次の一連の作業を実施した。
※1 オルソ画像:通常のカメラで撮影した際に、周辺部ではわずかな歪(ひず)みが生じる。この歪みを補正して像の形状を正しく表現した画像がオルソ画像となる。オルソ画像を用いることで、画像上の任意の地点間の距離や、指定した範囲の面積などを正確に測ることができる。またCADにオルソ画像を取り込んだ場合は、そのまま平面図をトレース可能だ
※2 LGSx:ライカの点群ビューア「TruView」に対応したファイル形式
1.点群データの読み込み
66スキャン、5.3億点、85.6GBのデータ読み込みは33分で完了した。
Cyclone REGISTER 360 PLUSはVer. 2023以降、インポートのパフォーマンス設定でCPU並列演算の設定が可能となっており、AMD Ryzen Threadripper PRO 7000 WXシリーズ プロセッサ(最高96コア/192スレッド)のコア数を有効活用できている。
なお点群データの読み込みに関しては、ライカジオシステムズが標準方式として推奨しているFAFフォーマットへ変換したうえで行った。
参考までに、ネットワーク経由で点群データを読み込んだ場合は55分を要した。
2.点群データの回転、Zoom、範囲選択、点群の消去
いずれの操作性も非常に快適で、全くストレスは感じられない。
特に点群の消去については、設計を次のプロセスにスムーズにつなげていくうえで重要だ。例えば、建物の改修を行うのであれば、その建物の点群データのみを残しておけばよく、同時にスキャンされた周辺の自動車や樹木などの不要な点群データは、次のプロセスに移る前に消去しておく必要がある。
また建物の点群データについても、計測するうえで不要な物体(人や物など)をあらかじめ削除し、出力時に点群の密度を減らす“間引き”をしておくことで、より軽いデータとして次のプロセスに引き渡すことが可能となる。
Lenovo ThinkStation P8のように高度な処理能力のワークステーションを用意することで、スキャン段階では妥協することなく高精度な点群データの取得が実現する。さらに、一次処理としての点群データの取捨選択や軽量化も効率的に行える。
3.オルソ画像出力
DXFエクスポート単位「メートル」、画像スケール「0.006メートル/ピクセル」の出力設定を行ったところ、3分で処理は終了した。体感的な比較ではあるが、一般的なハイエンドワークステーションと比べて、20〜30%の性能向上を実現していると思われる。オルソ画像出力は、もともとそこまで大きな負荷のかかる処理ではないが、オルソ画像化したい場所ごとに繰り返し出力を行うため、数分の処理時間短縮でも、全体で考えれば大幅な効率化につながる。
4.データ出力(LGSx、ReCap)
間引きのない点群データをそのまま出力したところ55分で完了した。下記の比較表に示すとおり、これは圧倒的な性能向上である。
ワークステーションに搭載されたプロセッサーのコア数/スレッド数が、ダイレクトにスループットに反映されるのは明らかだ。
今回の検証結果における評価のポイントとなるのは、データ出力におけるスループットの大幅な改善だ。
今回の検証では一般的なLGSx、ReCapのみについてデータ出力を行ったが、土木・建築の現場ではPTS(点群)、LAS(点群)、PTG(器械点)、PTX、ES7など、多岐にわたる形式でデータ出力する。出力する形式の数が増えるほど、処理時間が掛け算で増えていくだけに、データ出力のスループット改善は業務の生産性向上に直結する。
仮にコア数やスレッド数の低いエントリーレベルやミッドレンジのワークステーションを利用し、今回の検証と同様の3Dスキャンの一連の作業を行った場合どうなるだろうか。倍以上の処理時間を要するのは確実で、途中でダウンしてしまう可能性も非常に高い。
実際、データ出力(LGSx、ReCap)の処理中にハードウェアリソースの利用状況をモニタリングしたところ、CPUがピーク性能に張り付いた状態で長時間にわたって稼働し続けていた。
当然のことながら、この過程ではCPUから膨大な熱が発生することになる。十分な冷却機構を備えていないワークステーションでは筐体内に熱がこもり、ダメージや故障を防ぐため、サーマルスロットリング機能を自動的に働かせて意図的に性能を下げてしまう。処理が長引くほど性能が低下していく、もしくは完全にダウンするといった悪循環に陥ってしまうのだ。
対して卓越した冷却機能を備えたLenovo ThinkStation P8は、CPUの性能を最大限に活用しつつ、長時間にわたって安定した稼働を続けたのである。
加えてLenovo ThinkStation P8に搭載された冷却ファンは静音性にも優れており、快適な作業環境を維持することができた。
今回の検証で行った3Dスキャンのデータ(66スキャン、5.3億点、85.6GB)は、建築・土木の実工事でのスキャンと比較すると小規模なサイズである。広大な現場では数百スキャン、何百億点という点群データを扱うことも珍しくない。より大規模なデータを複数形式で書き出すともなれば、1回の出力で1日がかりの処理になる場合もあるだろう。
このように、3Dスキャン、点群データを扱う業務では膨大なデータの処理が必要となり、処理の高速化と機材トラブルが起きない安定性が非常に重要だ。
これから3Dスキャンを業務に取り入れていく企業や活用の幅を広げていこうとする企業は、コア数やスレッド数、メモリといったスペックに加え、冷却性能や堅牢性、処理の安定性に優れたLenovo ThinkStation P8のようなハイスペックワークステーションをぜひ検討してほしい。
冒頭で述べた通り、土木・建築業界では今後、建造物や建物、土地などの対象物を3Dスキャンすることで点群データを収集し、図面化するという案件が、ますます拡大/増大していくと予想される。加えて、製造業でも工場などに設置する機械の設置計画や搬入計画を検討する際に、工場の点群データを活用する動きもみられる。これからは、3Dスキャンの活用で、設計に使用する3DCADデータと現実の構造物がリンクしたデジタルツイン環境の構築も、より身近なものになっていくだろう。
そうした中で常に問われるのは、膨大なデータ処理や3Dデータの編集作業をいかに正確かつ効率的に実施するかだ。これができてはじめて、限られた人材を有効活用しつつ、デジタルツインや3Dデータ活用を実業務の効率化や品質向上へつなげ、市場競争力や企業価値の向上が実現する。
そのためにも3Dスキャンの一連の作業工程で、ワークステーションの活用は必須となる。今回の検証に用いたLenovo ThinkStation P8をはじめ、性能と信頼性に優れたLenovoのワークステーションは有力な選択肢となるだろう。
※)本記事はレノボ・ジャパンから提供されたコンテンツをBUILT編集部で一部編集し転載したものです。
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提供:レノボ・ジャパン合同会社
アイティメディア営業企画/制作:BUILT 編集部/掲載内容有効期限:2024年12月22日