第6回 ジャパンビルド−建築の先端技術展− 特集

インフラ維持管理にAIを活用する方法論と最新動向、立命館大・野村教授の講演からインフラメンテナンス×AI(1)(1/3 ページ)

国内の土木分野では、インフラの老朽化という喫緊の課題が差し迫っており、例えば道路橋では建設後50年に達するものが6割にも及ぶとされている。建設業界での慢性的な人手不足の解消と、必要とされる事後保全から予防保全への転換で必須とされる新技術と期待されるのが「AI」だ。土木学会とインフラメンテナンス国民会議のシンポジウムから、インフラメンテナンス領域でのAI活用の最新動向を追った。

» 2020年03月18日 06時03分 公開
[石原忍BUILT]

 ここ数年、AI技術を活用して、インフラメンテナンスの業務プロセスを改善する取り組みが進んでいることを受け、土木学会(構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会)と、インフラメンテナンス国民会議(革新的技術フォーラム)は、2019年11月に都内の土木学会講堂でシンポジウムを開催した。

 当日は、AIを採用した最新のインフラ動向や関連するテクノロジーを各分野のエキスパートが、産官学の多面的な角度から紹介し、今後のメンテナンスへのさらなる利活用や技術革新、研究開発のビジョンについて考察する場となった。

 会場で繰り広げられたセッションのうち、立命館大学 理工学部 環境都市工学科 建設プロジェクトマネジメント研究室 教授 野村泰稔氏の講演では、「AI/深層学習を損傷・異常検知に使用するには〜方法論の整理と適用事例」をテーマに、AIと深層学習に関する技術研究の現在地を示した。

土木分野のAI活用では何がいま研究されているか?

立命館大学 野村泰稔教授

 AIは、基本的には画像データを入力して、それが何かを画像で解析したり、何がどこに写っているかを物体の種類と位置を検出したりすることに使われる。他にも、音声や文章などを複合化した後に、“教師あり学習”で推定するといった技術やセンサー信号から異常の有無を検知するといった利用方法がある。

 深層学習(CNN:Convolutional Neural Network)には、「認識・分類」「検出」「セグメンテーション」「生成」「キャプション生成」の機能がある。このうち、セグメンテーションはピクセル単位でカテゴリー(人、木、自動車など)を予測するもので、自動運転技術への応用が想定されている。

深層学習の利用例

 また、生成は、最初に数点のひび割れ画像を与えれば、後は人工的にひび割れの画像を自動で作り出すというもの。教師データ自体を深層学習で生成するため、“教師なし学習”が実現する。

 キャプション生成に関しては、画像を与えると、その画像を説明する文章を自動で生成する仕組み。最近では、画像から異なる画像へと変換する技術も進んでおり、写真とスタイル(画風)画像を利用して、1枚の写真を著名な画家が描いたかのような絵画調の画像へと生まれ変わらせる。ここ数年は、等高図と地すべりが起きた衛星画像を対にして学習することで、土砂崩れの起こりそうな場所をスクリーニングして、災害の予防保全に役立てるAIモデルの開発も進められているという。

 その他の応用例では、センサー信号から正常と異常を判断する「教師ありの異常検知」があり、正常と異常のサンプルが大量にある場合には有効手段となる。

 しかし、異常検知では“異常がめったに発生しない”ことが圧倒的に多く、これに対応した正常データのみを用いる「教師なし異常検知」の研究が製造・機械系で進められている。この検討では、2017年ごろまでは、「AE(Auto Encoder:自己符号化器)」を活用して、再構成誤差を評価することで異常レベルを推定していたという。

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